パキポディウムの実生|種類で変わる発芽と育ち方、マカイエンセ・恵比寿笑い・ラメリーの違い

パキポディウムの実生は、どの種類も「新しい種を、無肥料の細かい用土に寝かせて置き、腰水で表面を乾かさずに暖かく保つ」ところまでは共通です。違いが出るのは発芽したあとで、ラメリーや白馬城は早く伸びて扱いやすく、マカイエンセやグラキリスは根元からふくらんでいき、恵比寿笑いはとてもゆっくりで蒸れに弱い。冬型の光堂だけは、まく季節そのものが逆になります。最初の1種を選ぶなら、どこでつまずきやすいかを先に知っておくと迷いません。
パキポディウムは、太い幹に棘を並べ、その先に細い葉を広げる塊根植物の仲間です。グラキリス、マカイエンセ、恵比寿笑い、ラメリーと顔ぶれは多彩で、どれも種から育てる実生(みしょう)で増やせます。ただ、同じ属でも発芽してからの育ち方はかなり違い、ある種類で通用した感覚が別の種類ではそのまま使えないこともあります。
この記事では、種類ごとの違いを先に地図にしてから、検索されることの多いマカイエンセと恵比寿笑いの実生、全種に共通する播種の要点、種の選び方の順にまとめます。いちばん人気のあるグラキリス1種にしぼった手順と年数の目安はグラキリスの実生に、迎えた株の管理はパキポディウムの育て方にまとめてあります。
パキポディウムの実生とは|種類で変わること、変わらないこと
パキポディウムの種は、どの種類も細長く平たい形をしています。さやの中では綿毛(冠毛)がついていて、熟すとさやが裂け、風に乗って飛んでいきます。種が大きく、発芽までの日数も短めなので、塊根植物の実生のなかでは取りかかりやすい部類です。
パキポディウムの種は細長く平たい形。熟したさやが裂けると、綿毛に乗って飛びます。(AIで生成したイメージです)
種類が違っても変わらないことは、次の3つです。
- 種の鮮度が発芽を左右する:パキポディウムの種は長くはもたず、採ってから時間が経つほど発芽しにくくなるとされます。
- まき方の基本は同じ:清潔で無肥料の細かい用土に寝かせて置き、腰水で表面を乾かさない。
- 苗のうちは光が足りないと伸びる:発芽直後に暗いと、根元がふくらまずに軸だけが伸びてしまいます。
一方で変わることは、発芽に向く季節と、発芽してからの育つ速さ、そして苗がどこで弱りやすいかです。ここを知らずにまとめてまくと、同じトレーの中で一方は元気に伸び、もう一方は動かないまま腐る、ということが起こります。
種類ごとの違い|発芽のしやすさと、苗の育ち方
よく流通する種類を、実生での扱いやすさで並べると次のようになります。目安は一般的な栽培情報をもとにしたもので、環境によって前後します。
| 種類 | 発芽 | 苗の育ち方 | 実生でつまずきやすい点 |
|---|---|---|---|
| ラメリー | 揃いやすい | 早い。幹が縦に伸びる | 光不足で間延びしやすい |
| 白馬城(サウンデルシー) | 揃いやすい | 比較的早い。根元がふくらむ | 苗の蒸れ |
| デンシフローラム(シバの女王の玉櫛) | 揃いやすい | 比較的早い。枝が出やすい | 光不足での徒長 |
| マカイエンセ | 揃いやすい | 根元からふくらみ、やや縦に伸びる | グラキリスとの交雑 |
| グラキリス | 揃いやすい | 根元が丸くふくらむ。ゆっくり | 徒長と最初の冬 |
| 恵比寿笑い(ブレビカウレ) | 種が少なく、揃いにくい | とても遅い。平たく横に広がる | 蒸れと過湿による腐れ |
| 光堂(ナマクアナム) | 季節を外すと出にくい | とても遅い。冬に育つ | まく季節(秋〜冬) |
表の上の方にあるラメリー、白馬城、デンシフローラムは、発芽後の伸びが早く、実生の流れを一通りつかむには向いています。ただ、ラメリーは早く育つぶん幹が縦に伸びやすく、光が足りないと棘の間隔が開いたひょろ長い姿になります。苗の段階から日当たりのいい場所で育てると、棘の詰まった締まった幹になります。
表の下に行くほど、ゆっくりで、苗の時期に気を配る場面が増えます。初めてパキポディウムをまくなら、育ちの早い種類か、情報の多いグラキリスやマカイエンセから始めると、つまずいたときに原因を探しやすくなります。
夏型・冬型の分かれ方や、成株になってからの夏と冬の扱いの違いはパキポディウムの育て方の種類別の表に整理しています。実生では、その違いが苗の小さいうちから、より強く表に出ます。
マカイエンセの実生|グラキリスと並べて見る違い
マカイエンセ(Pachypodium rosulatum subsp. makayense)は、マダガスカル南西部のマカイ山地に由来する名前を持つパキポディウムです。グラキリスと同じロスラーツムのなかまに入り、大きな黄色い花を咲かせます。実生株が多く流通しているので、グラキリスと並んで「種から育てるパキポディウム」の代表格です。
左からグラキリス系、マカイエンセ系、ラメリー。同じ属の実生株でも、幹の形はここまで分かれます。(AIで生成したイメージです)
まき方と発芽の条件は、グラキリスとほぼ同じです。違いが見えてくるのは苗が育ち始めてからで、一般に次のような傾向があるとされます。
- 幹の形:グラキリスが丸く平たくふくらんでいくのに対し、マカイエンセはとっくり形でやや縦に伸び、上の方で枝を分けやすい。
- 育つ速さ:グラキリスより太りが早いと言われることが多く、数年で見応えのある姿になりやすい。
- 葉と枝:グラキリスに比べて葉がやや大きく、枝がしっかりしている株が多い。
ただし、これは傾向であって、1株ずつの差はかなり大きく出ます。同じ種から育った苗のなかに、グラキリスに近い丸い株と、すらりと伸びる株が並ぶことも珍しくありません。
もうひとつ知っておきたいのが交雑です。マカイエンセとグラキリスは同じロスラーツムのなかまで、花の時期に近くに置かれていると、互いの花粉で実を結ぶことがあります。親株を何種類も並べた場所で採られた種は、ラベルの名前どおりの姿にならない場合があります。どちらかの姿をはっきり楽しみたいなら、採種の親が分かる種を選ぶのが確かです。交雑も含めて「どんな姿が出てくるか」を楽しむのも実生のひとつの面白さで、そこは好みで選んでかまいません。
苗のあとの管理(徒長させない光、腰水の外し方、最初の冬に断水しないこと)は、グラキリスとそのまま共通です。手順の細かいところはグラキリスの実生の「発芽してから最初の冬まで」をそのまま当てはめられます。
恵比寿笑いの実生|ゆっくり育ち、蒸れに弱い
恵比寿笑い(P. brevicaule)は、平たく横に広がる幹が岩の塊のように見える、独特の姿のパキポディウムです。種から育てることはできますが、ここまでの種類とは勝手がかなり違います。
- 種そのものが少ない:流通する種の量が少なく、手に入る時期も限られます。新しい種が出ていたら、届いてすぐまけるよう用土と容器を先に用意しておくと無駄がありません。
- 苗がとてもゆっくり:発芽してからの育ちが遅く、何年たっても指先ほどの大きさ、ということも珍しくありません。
- 蒸れと過湿に弱い:もともと標高の高い岩山に生える植物で、苗のうちから高温多湿を嫌います。腰水は他の種類より早めに切り上げ、風の動く場所で育てます。
真夏は他の夏型の種類と同じ調子で水を与えると、動きの鈍った苗の鉢が湿ったままになり、根元から傷みやすくなります。夏のあいだは強すぎない光と風を確保し、水の間隔を少し空けるのが基本です。
成長を早めるために、育ちの早いラメリーなどの苗を台木にして接ぎ木する方法も知られています。台木の根の力を借りて生育を早める考え方で、恵比寿笑いのように実生がゆっくりな種類で使われることがあります。まずは種から素直に育て、その遅さも含めて付き合うのが恵比寿笑いの実生の入口です。
冬型の**光堂(ナマクアナム)**も、恵比寿笑いと同じくゆっくり育つ種類です。こちらは南アフリカ西部の冬に雨が降る地域の出身なので、夏型の種類と同じ5〜7月にまいても揃いにくく、暑さがやわらいだ秋から冬にかけてまくのが基本になります。夏型の種類と同じトレーで管理しないようにします。
全種に共通する播種の要点
まく作業そのものは、種類が違ってもほとんど同じです。要点だけを並べます。
- 時期:夏型の種類は、気温が25℃を超えてくる5〜7月がいちばん揃いやすい。早めにまくならヒーターマットで鉢の温度を補う。
- 用土:細粒の赤玉土・鹿沼土・軽石など、清潔で肥料の入っていない無機質のもの。表面5mmほどを細かい粒にしておくと、種が隙間に落ちない。
- 置き方:細長い種を横に寝かせて、1〜2cmほどの間隔で並べる。ごく薄く覆うか、軽く押して用土に沈める程度で、深く埋めない。
- 水と覆い:腰水で下から吸わせ、霧吹きで表面を湿らせて、透明な蓋やラップで乾燥を防ぐ。密閉はせず、日中は少し開けて空気を入れ替える。
- 温度:夏型の種類は25〜30℃前後。条件が合えば数日から2週間ほどで芽が出る。覆いをしたまま直射日光に当てると中が高温になるので、直射は避ける。
発芽して双葉が開いたら覆いを外し、明るい場所へ移して少しずつ光に慣らします。本葉が出て根元がふくらみ始めたら、腰水の水位を下げて、上からの水やりへ移っていきます。
用土の組み方は用土の選び方に、室内で光を補う方法は育成ライトの選び方にまとめています。種の扱いや腰水の外し方の考え方は、球形ユーフォルビアを例にしたオベサの実生とも重なります。
種の選び方|鮮度、親株、そしてワシントン条約
実生の結果を大きく分けるのは、まく前の種選びです。見るところは3つあります。
ひとつめは鮮度。 採種の時期が新しく、中身が詰まって張りのある種を選びます。薄くぺたんとしたもの、指で押してつぶれるものは発芽しにくい傾向があります。届いたらできるだけ早くまくのが基本です。
ふたつめは親株。 先のマカイエンセとグラキリスのように、近いなかまどうしは交雑することがあります。名前どおりの姿を求めるなら、親が分かっている種を選びます。自分で種を採る場合、パキポディウムは1株の花どうしでは実がつきにくいとされ、別の個体と受粉させる必要があることが多いです。花粉のつけ方の考え方はオベサの受粉が参考になります。
みっつめは出どころ。 パキポディウム属はワシントン条約(CITES)の対象で、多くの種類は附属書IIに含まれます。附属書IIのパキポディウムは、注釈によって種子が規制から外れているため、株よりも種の方が扱いやすい形です。一方、アンボンゲンセ、バロニー、デカリー、ウィンゾリーは附属書Iで、こちらは種も含めて厳しく扱われます。区分は改正されることがあり、海外から取り寄せる場合は植物検疫の手続きも関わるため、国内で採種・販売されている種を選ぶのがいちばん手軽です。
種から育てるか、実生株を迎えるか
パキポディウムの実生は、発芽そのものはそれほど難しくありません。時間がかかるのはその先で、見応えのある姿になるまでには種類によって数年から10年単位の付き合いになります。その過程をまるごと見られるのが種から育てる良さです。
一方で、すでに数年育った実生株を迎えるという選び方もあります。鉢の中で根が働いている状態から始められるので、迎えたその日から普通の管理に入れます。現地から運ばれてくる輸入株との違いは実生株と輸入株の違いに、未発根の株を迎えたときの扱いは塊根植物の発根管理にまとめています。
縁側では、球形ユーフォルビアのオベサとオベサ鉄甲(愛好家のあいだでは「オベ鉄」)を中心に、実生の株を1株ずつ紹介していく予定です(個体販売は準備中)。はじめの入荷は入荷通知に登録いただいた方から先にお知らせします。
よくある質問
パキポディウムの種は、何日くらいで発芽しますか?
夏型の種類なら、25〜30℃前後を保って腰水で表面を乾かさずにおけば、数日から2週間ほどで芽が出ることが多いです。種が古いと日数がかかったり、出ないまま傷んだりします。冬型の光堂は季節が逆で、秋から冬にまいたときに動きます。
初めてまくなら、どの種類がいいですか?
発芽が揃いやすく、苗の育ちも早いラメリーや白馬城は、実生の流れを一通りつかむのに向いています。姿の好みで選ぶなら、情報の多いグラキリスやマカイエンセも始めやすい種類です。恵比寿笑いや光堂はゆっくりで苗の管理にも気を配るので、ほかの種類で一度慣れてからでも遅くありません。
マカイエンセとグラキリスの実生は、どう違いますか?
まき方と発芽の条件はほぼ同じです。違いは育ち方で、グラキリスは丸く平たくふくらみ、マカイエンセはとっくり形でやや縦に伸びて枝を分けやすい傾向があります。太りはマカイエンセの方が早いと言われることが多いものの、1株ずつの差が大きく、両者は交雑もするので、名前どおりの姿を求めるなら親の分かる種を選ぶのが確かです。
違う種類の種を、同じトレーにまいてもいいですか?
夏型どうしなら、まく作業は一緒にできます。ただ、発芽後の育つ速さや、腰水を切り上げたいタイミングが種類ごとに違うので、鉢を種類ごとに分けておくと管理しやすくなります。蒸れに弱い恵比寿笑いや、季節の逆な光堂は、別に管理するのが安全です。