鉄甲丸の実生|種から親と同じ姿になるか、種の採り方と苗が松かさになるまで

鉄甲丸(Euphorbia bupleurifolia)は交配種ではなく原種なので、鉄甲丸どうしで受粉した種からは、鱗片の詰まり方などに個体差はあっても鉄甲丸の姿の苗が育ちます。ずれが出るのは、親株がじつは交配種だった場合と、受粉のときにほかのユーフォルビアの花粉が混ざった場合の2つです。雌雄異株で年によって花の性が変わる報告もあるため、種を採るなら株を数株そろえ、その年に雄花と雌花が同時に咲くのを待ちます。早春に咲いて春から初夏に実るので、採ったその季節のうちにまけるのが鉄甲丸の実生の利点です。まき方そのものはオベサと同じで、発芽はおおむね1〜3週間。苗は細い緑の茎の上に葉を出す姿から始まり、鱗片がはっきりして松かさらしくなるまでには年単位の時間がかかります。
鉄甲丸(てっこうまる、Euphorbia bupleurifolia)は枝を伸ばさず、子株もあまり出さないので、増やすなら種から育てる実生(みしょう)が基本です。種をまく手順そのものは、同じユーフォルビアのオベサとほとんど変わりません。違ってくるのはその手前で、「この種から本当に鉄甲丸が育つのか」「どうやって種を実らせるのか」「いつまくのがいいのか」の3つに、鉄甲丸ならではの事情があります。
この記事では、その鉄甲丸に固有のところに絞ってまとめます。用土の配合や腰水の張り方、発芽後に蓋を外す順番といった共通の手順はオベサの実生に、花粉の付け方の細かな手つきはオベサの受粉に書いてあるので、あわせて読むと流れがつながります。親株の一年の管理は鉄甲丸の育て方にあります。
種から鉄甲丸になるか|原種なので、鉄甲丸どうしなら鉄甲丸の姿に育つ
まず、いちばん気になるところから。鉄甲丸は人が掛け合わせてつくった交配種ではなく、南アフリカ東部に自生する原種です。そのため、鉄甲丸の雄株の花粉が鉄甲丸の雌株について実った種なら、育つのは鉄甲丸の姿の苗です。
ただし、まったく同じ姿がそろうわけではありません。種から育つ株は1株ずつ遺伝的に違うので、鱗片の大きさや詰まり方、葉の幅と長さ、幹の太り方には個体差が出ます。この差は「親と違う」というより、実生株それぞれの顔つきです。挿し木や株分けで殖やした株が親とそっくりになるのとは、ここが違います。
親と明らかに違う姿の苗が出てくるのは、次の2つのどちらかが起きたときです。
| 入り口 | 何が起きているか | 苗に出やすい変化 |
|---|---|---|
| 親株がじつは交配種だった | 「鉄甲丸」「蘇鉄麒麟」の名で出回る株に、鉄甲丸を片親にした交配種が混ざっている | 兄弟の苗どうしで姿のばらつきが大きくなる |
| 受粉のときに別の花粉が混ざった | 同じ時期に咲くほかのユーフォルビアの花粉が、筆や虫を通して雌花についた | 稜や縞が出る、刺が出る、子株をよく吹くなど、鉄甲丸にない特徴が出る |
ひとつめの「名前の問題」は、鉄甲丸ではよく起きます。鉄甲丸は交配親としてよく使われてきた種で、瑠璃晃と掛け合わせた峨眉山(がびざん)、峨眉山にもう一度鉄甲丸を重ねた峨眉山鉄甲、怪魔玉に鉄甲丸を掛けた蘇鉄麒麟など、姿の近い交配種がいくつもあります。しかも「蘇鉄麒麟」という名前は原種の鉄甲丸を指すこともあれば、交配種を指すこともあります。交配種どうしの種からは、祖父母の代の特徴がさまざまな割合で出てくるため、兄弟の苗が驚くほどばらけます。
親株がどちらなのかを確かめる手がかりは、伸び方と子株の出方です。原種の鉄甲丸は1本の幹で育ち、太さ7〜8cm・高さ20cm前後で止まります。縦にどんどん伸びる、株元から子株を次々に吹く、といった株は交配種の可能性があります。見分けの手がかりは鉄甲丸の交配種まとめに表にしてあります。
種を採るには|雌雄異株で、その年に雄花と雌花がそろうこと
鉄甲丸は雌雄異株で、1株では種ができません。種を採るには、雄株と雌株が同じ時期に咲いている必要があります。ここまではオベサと同じですが、鉄甲丸には条件がもうひとつ重なります。
- 咲くまで雌雄が分からない:幹や葉に雌雄の差はなく、花の中を覗いてはじめて分かります。黄色い花粉の房が立てば雄株、先が3つに分かれた柱頭が出れば雌株です。
- 年によって花の性が変わる報告がある:前の年に雌花をつけた株が次の年は雄花をつける、同じ株に両方が出る、という例が知られています。去年のラベルが今年の組み合わせを保証してくれるとは限りません。
- 咲くまでに年数がかかる:花が上がるのは、ある程度の大きさに育った株からです。種から育てた苗なら数年、幹が指2本ぶんほどの太さに育つまでは咲かないのがふつうです。
この3つが重なるので、2株だけで毎年種を採ろうとすると、雌雄がそろわない年が出てきます。種を採ることを考えるなら、開花する大きさの株を数株そろえておくのがいちばん確実です。花が咲いたら、杯の中を見て「♂」「♀」と年を添えたラベルを差しておくと、次の年に性が入れ替わったときにも記録と照らし合わせられます。花の見分け方と咲いたあとの扱いは鉄甲丸の花にまとめました。
意図しない交配を避けたいときは、受粉に使う筆を株の組み合わせごとに替えるか、使うたびにきれいに拭きます。同じ早春に峨眉山など鉄甲丸の血を引く交配種も咲くので、同じ棚に並べていると花粉が混ざりやすくなります。種の袋や鉢には、母株(種をつけた株)と花粉親の両方を書いておきます。
受粉から採種まで|早春に咲き、春から初夏に実る
鉄甲丸の花は早春、おおむね2〜3月に、休眠明けの新しい葉が動き出すのと同じころに咲きます。頂部のロゼットの中心から細い花柄が伸び、その先に数ミリの杯がひとつ付く咲き方です。花柄が葉の上へ抜けるので、離れた場所からでも咲いたことに気づけます。
熟しはじめた果実に、通気のある小袋をかぶせて種の飛び散りに備えます。(AIで生成したイメージです)
受粉は、雄花の花粉を細い筆や綿棒で取り、雌花の3つに分かれた柱頭になでるようにつけます。うまくいけば数日で柱頭の下がふくらみ、3つの部屋に分かれた丸い果実になります。ここからの流れは次のとおりです。
- 果実がふくらむ:花柄の先で、緑の丸い粒が少しずつ大きくなります。
- 色が変わりはじめたら覆う:緑から薄い茶色へ変わりはじめたら、お茶パックや茶こし袋のような通気のある袋をふわりとかぶせます。ユーフォルビアの果実は熟すと弾けて、種を遠くへ飛ばします。
- 弾けた種を集める:袋の中に落ちた種と殻を取り出し、殻を除いて種だけにします。
結実は株の体力を使います。花が咲くだけなら株は弱りませんが、果実を実らせると、その年の幹の太りが鈍ることがあります。鉄甲丸はもともと1年に鱗片一段分しか伸びない植物なので、まだ小さい株なら1年おきにする、実らせる果実の数を絞るなど、株の大きさに合わせて加減します。筆の扱いや、受粉できたかどうかを子房のふくらみで確かめる方法は、オベサの受粉の手順がそのまま当てはまります。
まく時期|採ったその季節のうちにまけるのが鉄甲丸の利点
鉄甲丸の種まきに向くのは、気温が20〜25℃くらいになる春から初夏です。そして早春に咲いた花の果実は、ちょうど春から初夏にかけて熟していきます。つまり採った種を、その季節のうちにまける。これが鉄甲丸の実生のいちばんの利点です。
ユーフォルビアの種は採りたてがいちばんよく発芽し、時間がたつほど発芽率が落ちていきます。同じ属でも、初夏から夏に咲くオベサは、種が採れるころにはまき時の後半にかかります。鉄甲丸は、採種とまき時が自然に重なります。支度だけ先に整えておき、種が採れたら日を置かずにまくのが確実です。
すぐにまけない事情があるときは、乾かしてから紙の袋に入れ、涼しく乾いた場所に置きます。密閉した容器で湿ったまま置くとカビが出ます。保存した種は採りたてより発芽がそろいにくくなるので、翌年まで持ち越すより、その年のうちにまくほうが失うものは少なくて済みます。
まく作業そのものは、オベサと同じです。
- 清潔で細かい、肥料の入っていない用土を小さな鉢に入れる
- 種を表面に置き、覆土はほとんどしない
- 腰水で表面を乾かさないようにし、明るい日陰で20〜25℃を保つ
条件が合えば、1〜3週間ほどで発芽します。用土の配合例、容器、腰水の深さ、発芽しないときに疑う順番はオベサの実生に手順としてまとめています。
発芽してから|松かさらしい姿になるまでの道のり
鉄甲丸の苗は、はじめから松かさの姿をしているわけではありません。発芽してしばらくは、細い緑の茎の上に細長い葉を数枚つけた、ほかの草花の苗とあまり変わらない姿です。親株の特徴である鱗片は、葉が出て落ちるたびにその付け根の跡が一段ずつ積み重なってできるものなので、年を重ねてはじめて目に見えてきます。
| 時期 | 苗の様子 | 見るところ |
|---|---|---|
| まいて1〜3週間 | 緑の芽が顔を出す | 発芽がそろったら、少しずつ蓋と腰水を外していく |
| 1年目 | 細い茎の先に葉を出す。鱗片はほとんど目立たない | 秋に葉を落とすかどうか、茎が柔らかくなっていないか |
| 1〜2年目 | 幹が鉛筆より太くなり、鱗片がはっきりしてくる | ここから水やりを親株の間隔に寄せていく |
| 数年 | 松かさらしい姿になり、開花する大きさへ | 咲いたら雌雄と年のラベルを差す |
この遅さは、鉄甲丸の性質そのものです。1年に伸びるのは数ミリから1cmほど。苗が「鉄甲丸らしく」なっていく過程を、一段ずつ見ていくのが実生の楽しみになります。
水やりは、親株とは逆の考え方になります。親株は土が中まで乾いてから与え、葉が落ちた冬は月1回ほどの少量に絞りますが、実生1〜2年目の苗は幹にためておける水がまだ少なく、同じ間隔では乾きすぎます。表面が乾いたら与える程度で育て、冬も月2回ほど少量を続けて、根を乾かしきらないようにします。幹が太って鱗片がはっきりしてきたら、少しずつ親株と同じ「中まで乾いてから」に寄せていきます。季節ごとの細かな切り替えは鉄甲丸の育て方の水やりの節にあります。
育ってきた苗が兄弟と違う姿になってきたら、最初の節で触れた交配の可能性が考えられます。稜に沿って縞が浮く苗にはオベサの、刺の出る苗にはホリダなど刺のある種類の特徴が混ざっているかもしれません。鉄甲丸とオベサの交配種がオベサ鉄甲(愛好家のあいだでは「オベ鉄」)で、親2種の見分けどころはオベサと鉄甲丸の違いにまとめています。
縁側では、鉄甲丸を片親にしたオベサ鉄甲の個体を、1株ずつ姿を見て紹介していく予定です(個体販売は準備中)。はじめの入荷は入荷通知に登録いただいた方から先にお知らせします。
よくある質問
鉄甲丸は種から育てても鉄甲丸になりますか?
鉄甲丸どうしで受粉した種なら、鉄甲丸の姿に育ちます。鉄甲丸は交配種ではなく原種だからです。ただし実生株は1株ずつ違うので、鱗片の詰まり方や葉の形には個体差が出ます。親と大きく違う苗が出るのは、親株がじつは鉄甲丸を片親にした交配種だった場合か、受粉のときにほかのユーフォルビアの花粉が混ざった場合です。
鉄甲丸1株だけで種は採れますか?
採れません。鉄甲丸は雌雄異株で、雄株と雌株が同じ時期に咲いている必要があります。さらに咲くまで雌雄が分からず、年によって花の性が変わるという報告もあります。種を採るなら、開花する大きさの株を数株そろえておくのが確実です。
鉄甲丸の種はいつまけばいいですか?
気温が20〜25℃くらいになる春から初夏です。鉄甲丸は早春に咲き、果実が春から初夏に熟すので、採った種をその季節のうちにまけます。ユーフォルビアの種は採りたてがいちばんよく発芽するので、採れたら日を置かずにまくのが確実です。
実生の鉄甲丸は、何年で松かさのような姿になりますか?
年単位でゆっくり進みます。1年目は細い茎の上に葉を出す姿で、鱗片はほとんど目立ちません。1〜2年目に幹が鉛筆より太くなって鱗片がはっきりし、数年かけて松かさらしい姿と、花が咲く大きさに近づいていきます。鉄甲丸は1年に数ミリから1cmほどしか伸びない植物なので、この遅さはふつうのことです。
挿し木や株分けでは増やせませんか?
鉄甲丸は枝を伸ばさないので、挿し木には向きません。株元から子株が出た個体なら、切り離して切り口を乾かし、乾いた用土に挿す株分けができますが、発根には時間がかかります。頂部を切って挿す方法は幹の姿を損なうため、この種では基本的に行いません。増やすなら実生が基本です。