万物想の実生|種まきの時期と発芽温度、粉のような種のまき方、苗の最初の夏

万物想(チレコドン・レティキュラーツス)は冬に育つ塊根植物なので、種まきは暑さがやわらぐ9〜10月ごろが向いています。種は粉のように細かいため、土をかぶせずに表面へまき、鉢の底から水を吸わせる腰水で乾かさずに管理します。15〜20℃前後の涼しい暖かさで、早ければ数日から数週間で芽が出ます。いちばんの分かれ目は最初の夏で、親株のように断水せず、明るい日陰で控えめな水を続けて越させます。
万物想(まんぶつそう、Tylecodon reticulatus)は、南アフリカ西部からナミビアにかけての、冬に雨が降る乾いた土地に育つベンケイソウ科の塊根植物です。ずんぐりした幹の先に指のような多肉質の葉をつけ、花のあとに残る枯れた花茎が年ごとに重なって、網目のような姿をつくります。
株は輸入されたものや挿し木で増やしたものも出回っていますが、種そのものや、種から育てた実生株も手に入ります。実生(みしょう)は、種から育てること、または種から育った株を指す言葉です。この記事では、万物想を種から始めるときの時期と手順、苗を失いやすい最初の夏の越し方、そこから親株の姿に近づいていくまでを順にまとめます。迎えた株の一年の管理はチレコドンの育て方に、種から育てる話の全体は実生・種まきにまとめてあります。
万物想の実生株とは|輸入株・挿し木株と何が違うか
万物想の株は、大きく実生株・輸入株(現地球)・挿し木株の3つに分かれます。見た目でいちばん違うのは、幹の太さと花茎の網目がどこまで育っているかです。
| 実生株 | 輸入株 | 挿し木株 | |
|---|---|---|---|
| 生まれ | 種から | 自生地から輸入 | 枝を挿して発根 |
| 幹 | 小さな苗から少しずつ太る | 太く年季の入った姿 | 親株の枝の太さから始まる |
| 花茎の網目 | 咲く年齢になってから重なりはじめる | すでに重なっている | 枝の育ち具合による |
| 迎えてからの手間 | 苗のうちは水を切らさない | 根が少ないことが多い | すぐ普通の管理 |
輸入株は、何年もかけて積み重なった花茎の網目をそのまま迎えられるのが魅力です。いっぽう実生株は、根が鉢のなかで育った株なので、迎えてから調子を崩しにくく、幹の形や枝の分かれ方が1株ずつ違います。小さな苗から網目ができていく途中を見ていけるのも、種から育てる楽しみです。札に書かれた「実生」「現地球」の見分け方や、迎えたあとの手間の差は実生株と輸入株の違いで整理しています。
種の特徴と、まく前に見ておくこと
万物想の種は、粉のように細かいのが最大の特徴です。茶色い細かな粒で、指先でつまむというより、紙の上で転がして扱う大きさです。この細かさが、まき方のすべてを決めます。
- 新しさ:採ってから時間の経った種ほど発芽しにくくなります。採種時期が新しいものを選び、届いたら乾いた涼しい場所に置いて、その年の秋にまくのが基本です。
- 数:細かい種は発芽の割合が読みにくく、まいた数の一部だけが芽を出すこともよくあります。数十粒単位でまとめてまくと見通しが立てやすくなります。
- 入手先:国内で採られた種のほか、海外で採られた種も流通しています。海外から取り寄せる場合は、植物検疫の手続きが関わります。
チレコドンの仲間は、阿房宮や奇峰錦なども同じように細かい種をつけます。種の大きさがほぼ同じなので、この記事の手順はほかのチレコドンにもそのまま当てはめられます。
まく時期と発芽の条件|秋、涼しくなってから
万物想は秋から春に育ち、晩春に葉を落として夏を休む冬型の植物です。種まきもこのリズムに合わせ、夏の暑さがやわらいで気温が下がりはじめる時期にまきます。
| 項目 | 目安 |
|---|---|
| まく時期 | 残暑が落ち着く9〜10月ごろ |
| 発芽に向く温度 | 15〜20℃前後の涼しい暖かさ |
| 発芽までの日数 | 早ければ数日。多くは1〜3週間ほど |
| 用土 | 細粒の無機質の用土で、肥料なし |
| 水 | 腰水で表面を乾かさない |
春にまいても芽は出ます。ただ、発芽した苗がまだ小さいうちに、すぐ夏の休眠の季節がやってきます。秋にまけば、苗は秋・冬・春とひと続きの生育期を過ごしてから最初の夏を迎えられるので、そのぶん体に水を蓄えた状態で暑さに入れます。室内で温度と光を整えられる場合も、この流れに合わせておくと管理が楽になります。
暑すぎる時期にまくと、芽が出てもひょろりと間延びしやすく、湿った用土が蒸れて傷みやすくなります。日中に30℃を超えるような日が続くうちは、まくのを待ちます。
粉のような種のまき方|土をかぶせず、下から吸わせる
細かい種は、土をかぶせると光が届かず、芽が地表まで上がってこられません。表面にまいて、かぶせないのが基本です。
- 用土を入れる:鉢に、軽石や赤玉土などの細粒の無機質の用土を入れます。表面だけでも、さらに細かい粒(細かい川砂や種まき用の細粒土)にしておくと、種が粒のすき間に落ちこみにくくなります。
- 先に湿らせる:トレーに水を張り、鉢の底から用土全体に水を吸わせます。
- 種をまく:二つ折りにした紙に種をのせ、指で軽くたたきながら、表面にまんべんなく落とします。一か所に固まらないようにします。
- かぶせない:土はかけません。上から水をかけると種が流れたり、すき間に沈んだりするので、ここからも水は鉢の底から吸わせる腰水だけで与えます。
- 覆いをして明るい日陰へ:透明な蓋やラップで乾きを抑え、直射の当たらない明るい場所に置きます。日中は蓋を少しずらして空気を入れ替えます。
種は紙の上から少しずつ落とし、土はかぶせません。(AIで生成したイメージです)
カビや苗の立ち枯れを防ぐために、腰水の水に園芸用の殺菌剤を薄めて加える方法もあります。使う場合は、ラベルの希釈倍率を守ります。
発芽してから最初の冬まで
芽はとても小さく、最初は用土の上に緑の点が散らばったように見えます。やがて根元がふくらみ、ごく小さな棒状の葉が数枚つく姿になっていきます。
芽が出て数か月の苗のイメージ。根元から少しずつふくらみはじめます。(AIで生成したイメージです)
- 覆いを外す:芽がそろってきたら、数日かけて蓋を開ける時間を長くし、外気に慣らしてから外します。閉めきったままだと、湿りすぎで苗の根元が細くくびれて倒れる立ち枯れが起きやすくなります。
- 光:光が足りないと苗が細長く伸び、倒れやすくなります。明るい日陰から始め、少しずつ日の当たる場所へ移します。室内なら植物育成ライトを使うと間延びを抑えやすくなります。
- 水:苗が小さいうちは腰水を続けますが、水位を下げ、表面が少し乾く時間をつくります。数か月して苗がしっかりしてきたら、乾きかけたら下から吸わせる形に切り替えていきます。
- 冬の温度:万物想にとって冬は育つ季節ですが、苗は霜や凍結に耐えられません。夜も5℃を下回らない明るい場所に置き、日中はできるだけ日に当てます。
- 肥料:苗が育ちはじめたら、ごく薄めた液体肥料を月に1回ほど。与えすぎると間延びの原因になります。
用土の組み方は用土の選び方にまとめています。苗はしばらく混み合ったまま育てて構いません。植え分けるのは、根元がはっきりふくらんでから、秋の動き出しの時期にします。
苗の最初の夏|親株のように断水しない
万物想の実生で苗を失いやすいのは、発芽のときより最初の夏です。春の終わりになると、苗も親株と同じように葉を黄ばませ、休眠に入ろうとします。
親株は太い幹に水をたっぷりためているので、夏じゅう断水しても持ちこたえます。ところがまいて1年目の苗は、根元のふくらみがまだ小さく、蓄えがほとんどありません。親株と同じように水を止めると、そのまま干からびてしまうことがあります。
- 置き場所:直射の当たらない明るい日陰で、風のよく通る場所へ移します。雨の当たらない軒下や棚の下が向いています。
- 水:断水はせず、夕方の涼しい時間に、用土の表面が湿る程度の水を与えます。間隔は乾き具合を見ながら、週に1回から10日に1回ほど。鉢のなかを長く湿らせたままにはしません。
- 蒸れ:暑さと湿りが重なると、苗は根元から傷みます。苗が混み合っている鉢は、とくに風を通すことを意識します。
- 秋の目覚め:涼しくなって新しい葉が動き出したら、少しずつ水の量を戻します。
同じ冬型の塊根植物では、亀甲竜の実生でも「最初の夏は苗だけ休ませない」が要点になっています。親株の夏の水の加減は、株の大きさによる違いも含めてチレコドンの育て方と塊根植物の水やりにまとめています。
種から育てた株の姿の変わり方|網目の花茎が見られるまで
万物想は成長のゆっくりした植物です。種から育てた株は、毎年の生育期ごとに根元と幹が少しずつ太り、枝が分かれて、親株に近いずんぐりした姿へ近づいていきます。苗のうちは同じ日にまいた株どうしでも大きさにかなり差が出ることがあり、幹の形や枝の分かれ方も1株ずつ違ってきます。
万物想らしい網目の花茎は、株が花を咲かせる年齢になってから見られるようになります。花のあとに残った細い花茎が枯れて硬くなり、年ごとに重なって網のように広がるため、網目の姿になるまでには、花が咲きはじめてからさらに何年かの積み重ねが要ります。輸入株のような見事な網目は、長い年月をかけた結果です。
- よく日に当てる:秋から春の生育期は日当たりと風通しのよい場所で育てると、枝が間延びせず、幹も締まって太ります。
- 鉢を急に大きくしない:根が回ったら一回り大きい鉢へ。大きすぎる鉢は用土が乾かず、夏に根を傷めます。植え替えは秋の動き出しに合わせます。
- 花茎は切らずに残す:枯れて見えても、花茎はこの植物の見どころそのものです。株が若いうちに咲いた花茎も、残しておくと重なりの始まりになります。
冬の置き場所の考え方は塊根植物の冬越しに、冬型・夏型の仲間全体は塊根植物(コーデックス)にまとめています。種のとれる花を咲かせるときの受粉の考え方は、交配(受粉)のやり方も参考になります。
縁側では、球形ユーフォルビアのオベサ鉄甲(愛好家のあいだでは「オベ鉄」)を中心に、実生の株から1株ずつ姿を見て紹介していく予定です(個体販売は準備中)。はじめの入荷は入荷通知に登録いただいた方から先にお知らせします。
よくある質問
万物想の種は春にまいてもよいですか?
春にまいても発芽はします。ただ、苗が小さいうちにすぐ夏の休眠の季節がくるため、蓄えの少ない状態で暑さを越すことになります。秋にまけば、秋から春までひと続きの生育期を過ごしてから最初の夏を迎えられるので、苗が育った状態で夏に入れます。春にまいた場合は、最初の夏を明るい日陰で、断水せずに控えめな水で越させます。
種をまいたのに芽が出ません。何が原因ですか?
まず温度を確かめます。万物想は15〜20℃前後の涼しい暖かさでよく芽を出し、暑すぎる時期にはそろいにくくなります。次に、土をかぶせていないか、上から水をかけて種が流れたりすき間に沈んだりしていないかを見ます。採ってから時間の経った種も発芽しにくくなります。発芽は数日で始まることもあれば数週間かかることもあるので、腰水で表面を乾かさずに様子を見ます。
実生の万物想は何年くらいで花茎の網目ができますか?
網目は、花が咲いたあとに残る花茎が年ごとに重なってできるものなので、まず株が花を咲かせる大きさに育つまでに何年かかかり、そこからさらに重なりを積み重ねていきます。育つ速さは株ごとの差や置き場所の光・温度で変わるため、決まった年数はありません。若い株に咲いた花茎も、切らずに残しておくと網目の始まりになります。