ユーフォルビアの交配のやり方|交配親の選び方、花粉の採り方と保存、ラベルの付け方と種の採取

ユーフォルビアの交配は、片方の株の雄しべから花粉を取り、もう片方の株の雌花の、先が3つに分かれた柱頭につけるだけの作業です。手つきより大事なのは段取りの3つ。①花の時期が重なる、同じ属のなかで近い仲間どうしを親に選ぶ(オベサや鉄甲丸のような雌雄異株なら雄株と雌株を用意する)、②狙った花粉以外が混ざらないよう、母株の花に覆いをかけて筆を相手ごとに分ける、③「母×父」と日付をその場で札に書き、採れた種と苗まで同じ記録を引き継ぐ。種類をまたいだ交配は実らない組み合わせも多く、実っても子の姿は1株ずつ違います。交配種の名前は学名ではなく園芸名で、「オベサ×鉄甲丸」のように母を先に書くのが通例です。
ユーフォルビアの交配は、ある株の花粉を別の株の雌花につけて種を結ばせ、その種から親とは違う姿の株を育てることです。作業そのものは筆1本でできますが、どの株とどの株を掛けるか、ほかの花粉をどう締め出すか、何を掛けたかをどう残すかで、結果の読み取りやすさがまるで変わります。
この記事では、ユーフォルビア属全体に通じる交配の段取りを、親選び・花粉の扱い・ラベル・種の採取・名前の付き方の順にまとめます。オベサどうしの受粉の細かな手つき(雄花と雌花の見分け、付ける回数、受粉できたかの確かめ方)はオベサの受粉に、採れた種のまき方はオベサの実生に、鉄甲丸を親にした交配種の顔ぶれは鉄甲丸の交配種まとめに分けて書いています。
交配の前に知っておきたい、ユーフォルビアの花のつくり
ユーフォルビアの花は、花びらのない**杯状花序(はいじょうかじょ)**という数ミリの器です。器のふちに蜜を出す腺体が並び、中には雄しべ1本だけの雄花がいくつかと、雌しべだけの雌花がひとつ入っています。交配で触るのは、このうちの2か所だけです。
- 花粉を取る場所:雄しべの先(葯)。熟すと黄色い粉をふいたようになります。
- 花粉をつける場所:雌花の柱頭。先が3つに分かれていて、その下に3つの部屋を持つ子房があります。
花そのもののしくみや、苞(ほう)が花びらに見える種類の話はユーフォルビアの花にまとめています。
交配の段取りを左右するのは、1つの株に雄花と雌花の両方が咲くかどうかです。
| タイプ | どんな咲き方か | 例 | 交配で気をつけること |
|---|---|---|---|
| 雌雄異株 | 雄花だけを咲かせる株と、雌花だけを咲かせる株に分かれる | オベサ、バリダ、鉄甲丸 | 母にする株が雌株、父にする株が雄株であることを、咲いた花で確かめてから組む |
| 雌雄同株 | 1つの器に雄花と雌花が同居する | ハナキリンなど多くの種類 | 同じ器・同じ株の花粉が先に付かないよう、母株の雄しべを早めに取り除く |
雌雄同株の種類では、雌花の柱頭が先に開き、雄しべがあとから伸びてくる順番のものが多いとされます。ただ、株の上では咲く時期の違う器が並んでいるので、隣の器の花粉が付くことはふつうに起こります。狙った相手の種を採りたいなら、母株のほうは雄しべが伸びたら摘み取っておくのが確実です。オベサのような雌雄異株なら、この手間はかかりません。代わりに、咲くまで性別が分からないという別の難しさがあります。雌雄の見分けはオベサの雌雄にまとめました。
交配親の選び方|近い仲間で、花の時期が重なるものを
ユーフォルビア属は2,000種を超える大きな属で、どれとどれでも掛け合わせられるわけではありません。親を選ぶときの目安は3つです。
1. 姿と原産地が近い仲間どうしを選ぶ。 種類をまたいだ交配で種ができやすいのは、属のなかでも近縁なもの同士です。オベサ、バリダ、鉄甲丸、瑠璃晃のような南アフリカ原産の球形〜短い円柱の仲間どうしは、実際に多くの交配種が流通しています。いっぽう、ハナキリンとオベサのように姿も原産地も遠いものは、花粉をつけても実らないか、実っても種が育たないことがほとんどです。属のなかの顔ぶれはユーフォルビアの種類で見渡せます。
2. 花の時期が重なるかを先に確かめる。 交配でいちばん多いつまずきは、両方の花が同じ時期に咲いていないことです。オベサは初夏から夏、鉄甲丸は早春と、半年近くずれる組み合わせもあります。時期がずれる組み合わせは、あとで書く花粉の取り置きが前提になります。
3. どちらを母にするかを決める。 種をつける側(母)は、実を熟させるあいだ体力を使います。十分な大きさがあり、花をいくつも咲かせる株を母にするのが基本です。雌雄異株なら、雌株を持っている側が母になります。流通している例では、オベサ鉄甲はオベサを母、鉄甲丸を父にした組み合わせとして知られています。同じ2種でも、母と父を入れ替えると実りやすさや子の出方が変わることがあるので、どちら向きで掛けたかは必ず記録しておきます。
親に選ぶ株は、名前だけでなく姿で選ぶのが交配の面白いところです。縞の濃さ、稜の数、突起の強さ。残したい特徴をはっきり持っている株ほど、子にもその特徴が出る見込みが上がります。
花粉の採り方と、時期がずれたときの取り置き
花粉は、葯が割れて黄色い粉が筆先にふわりと移るくらいに熟したときに取ります。乾いた細い筆か、先を整えた綿棒、ピンセットを使います。ピンセットで雄しべごと摘み取り、そのまま柱頭になでつけるやり方もあります。
花の時期が重ならないときは、花粉を取り置いて相手の開花を待ちます。
- 雄しべ(または雄花ごと)を摘み、薬包紙のような薄い紙に包む
- 紙ごと小さな容器に入れ、乾燥剤と一緒に冷蔵庫へ置く
- 包みにはどの株の花粉か、採った日付をその場で書く
取り置いた花粉は、日が経つほど付きにくくなっていきます。数日から数週間の橋渡しなら冷蔵で足りることが多く、それより長く持たせたいときに冷凍を試す育て手もいますが、どれだけ持つかは種類や状態で違い、確かな目安はありません。新しい花粉ほど確実と考え、取り置いた花粉で実らなかったときは、翌シーズンに新しい花粉で掛け直すつもりでいると気が楽です。オベサでの取り置きの具体例はオベサの受粉にも書いています。
ユーフォルビアは、傷つけると白い樹液が出ます。雄花を摘んだ跡からにじむこともあるので、作業は手袋をつけて行い、樹液のついた手で目をこすらないようにします。扱い方はユーフォルビアの樹液にまとめています。
ほかの花粉を混ぜない|覆いと筆の分け方
交配で狙った組み合わせの種を採るには、ねらった花粉だけが柱頭に届くようにしておく必要があります。ユーフォルビアの腺体は蜜を出すので、屋外や風通しのよい窓辺ではアリや小さなハエが器から器へ渡り歩きます。近くにほかの種類が咲いていれば、知らないうちに別の花粉が付きます。
- 母株の花は、柱頭が開く前に覆う。 お茶パックや目の細かいネットを、つぼみのうちにふわりとかぶせて留めておきます。花粉をつけるときだけ外し、つけ終わったらすぐ戻します。ビニールは蒸れるので向きません。
- 筆は花粉親ごとに分ける。 1本の筆で何種類もの花粉を扱うと、前の花粉が残ります。父にする株ごとに筆を決めておくか、使うたびにアルコールで拭いてよく乾かします。
- 雌雄同株の母株は、雄しべを摘んでおく。 自分の花粉が先に付くのを防ぎます。
柱頭は開いているあいだ数日受け付けるので、翌日、翌々日と重ねて花粉をつけると取りこぼしが減ります。受粉がうまくいけば、数日から1週間ほどで柱頭の下の子房がふくらみ始めます。
ラベルの付け方|「母 × 父」と日付を、花の段階から残す
交配でいちばん後悔しやすいのは、手つきではなく記録です。花の段階では覚えていても、果実が熟し、種をまき、苗が育つころには、どの花にどの花粉をつけたのかが分からなくなります。
交配に使う道具は、筆と紙と札でほとんど足ります。(AIで生成したイメージです)
書き方は、園芸の世界で広く使われている形に合わせておくと、あとから見ても迷いません。
- 母を先、父を後に書く:「オベサ × 鉄甲丸」なら、オベサが種をつけた側、鉄甲丸が花粉を出した側です。性別の記号を添えて「オベサ♀ × 鉄甲丸♂」と書く人もいます。
- 株ごとに番号を振る:同じオベサでも株によって姿が違うので、「オベサ1号 × 鉄甲丸3号」のように個体まで分かるようにします。
- 日付を入れる:花粉をつけた日、取り置いた花粉ならその採取日も。
花の段階では、花柄の根元に細い糸や小さな札を結び、番号だけを書いておきます。中身(母・父・日付・何回つけたか)はノートや手元のメモにその番号で控えます。果実が熟したら同じ番号の袋に種を受け、種をまいた鉢にも同じ交配式を書いた札を挿します。花→実→種の袋→鉢と、同じ番号を最後まで引き継ぐのが、記録が崩れない唯一のやり方です。
種の採取|熟した実は弾けて飛ぶ
受粉した実は、3つの部屋にひと粒ずつ種を抱えてふくらみ、熟すと乾いて弾け、種を遠くまで飛ばします。種類によって熟すまでの日数は違いますが、オベサならふくらみ始めてからおおむね3週間前後が目安です。実の色が緑から少し茶色がかってきたら、弾ける前に覆いをかけて種を受け止めます。最初に母株の花にかけた覆いを、そのまま残しておけば手間がひとつ減ります。
採れた種は、殻のかけらを取り除き、交配の番号を書いた紙袋に入れて涼しく乾いた場所に置きます。ユーフォルビアの種は採りたてほどよく発芽し、日が経つほど発芽率が下がる傾向があるので、まける季節に採れたなら早めにまくのが確実です。まき方はオベサの実生に、松かさ状の肌を持つ親の場合は鉄甲丸の実生にまとめています。
種類をまたいだ交配では、実はふくらんだのに中身が空だったり、発芽しても苗が育たなかったりすることがあります。これは株の調子ではなく、組み合わせそのものの相性で起こります。何度か試して実らないなら、別の相手を選び直すのもひとつの判断です。
交配種の名前はどう付くのか
ユーフォルビアの交配種には、学名として正式に登録された名前がないものがほとんどです。流通している名前は、おおむね次の3つの形のどれかです。
| 名前の形 | 例 | 読み方 |
|---|---|---|
| 交配式 | オベサ × 鉄甲丸、Euphorbia obesa × bupleurifolia | 母 × 父。中身がそのまま分かる |
| 親の名前を組み合わせた園芸名 | オベサ鉄甲、バリダ鉄甲 | 頭が相手の親、「鉄甲」が鉄甲丸を指す |
| 組み合わせが読み取れない園芸名 | 峨眉山、怪魔玉 | 作出や流通の過程で付いた名前。中身は資料で確かめる |
園芸名には公式の基準がないため、同じ株が店ごとに違う名前で呼ばれたり、同じ名前の中身が資料によって違ったりします。交配親の書き方が食い違う理由は鉄甲丸の交配種まとめで詳しく触れています。
自分で交配した株に名前を付けるときは、すでに流通している名前と重ならないものにし、交配式も一緒に残しておくのが後々のためです。名前だけが独り歩きすると、数年後には何と何を掛けた株なのか、誰にも分からなくなります。
交配した種から育つ株|1株ずつ違う顔が出る
交配した種から育った株は、兄弟でも1株ずつ姿が違います。オベサと鉄甲丸の交配なら、ほとんどオベサに見える株から、鉄甲丸寄りの突起の強い株まで幅が出ます。この幅は、子株や挿し木で増やした株にはない、種から育てた株ならではのものです。
育ってきた苗の中から、気に入った姿を残していくのが選別です。さらに、選んだ株をもう一度片方の親に掛け戻すと、その親の特徴を強めた次の世代がつくれます。峨眉山鉄甲のように、交配種にもう一度鉄甲丸を重ねた名前が流通しているのは、この掛け戻しの結果です。
ただし、交配種は花が咲くまでに年数がかかり、どの特徴が出るかは育ててみるまで分かりません。数年単位で付き合う作業だと思っておくと、思った姿にならなかった株も、その幅ごと楽しめます。オベサ鉄甲の姿の幅や育て方はオベサ鉄甲とはに、親2種の見分け方はオベサと鉄甲丸の違いにまとめています。
縁側では、オベサ鉄甲の個体を1株ずつ姿を見て紹介していく予定です(個体販売は準備中)。はじめの入荷は入荷通知に登録いただいた方から先にお知らせします。
よくある質問
違う種類のユーフォルビアどうしでも交配できますか?
近い仲間どうしならできます。オベサ・バリダ・鉄甲丸・瑠璃晃のような、南アフリカ原産の球形〜短い円柱の仲間どうしは、実際に多くの交配種が流通しています。いっぽう、姿も原産地も遠い組み合わせは、花粉をつけても実らないか、実っても種が育たないことがほとんどです。まずは流通している交配種の親の組み合わせを手がかりに選ぶと、実りやすい相手が見つけやすくなります。
1株だけで交配種はつくれますか?
つくれません。交配は2つの株を掛け合わせる作業なので、少なくとも母と父の2株が要ります。オベサや鉄甲丸のような雌雄異株では、母にする株が雌株、父にする株が雄株である必要があり、咲くまで性別が分からないため、苗を数株そろえておくのが近道です。
花粉はどれくらい保存できますか?
乾燥剤と一緒に冷蔵しておけば、数日から数週間の橋渡しには使えることが多いです。それ以上長く持たせたいときに冷凍を試す育て手もいますが、どれだけ持つかは種類や状態で違い、確かな目安はありません。新しい花粉ほど確実なので、取り置いた花粉で実らなかったら、翌シーズンに新しい花粉で掛け直すつもりでいると安心です。
交配式の「×」の前と後ろは、どちらが母ですか?
前が母(種をつけた側)、後ろが父(花粉を出した側)と書くのが通例です。「オベサ × 鉄甲丸」なら、オベサに鉄甲丸の花粉をつけて採った種、という意味になります。母と父を入れ替えると子の出方が変わることがあるので、自分で記録するときもこの順番をそろえておきます。
交配した種から育てた株は、親と同じ姿になりますか?
同じにはなりません。交配した種から育つ株は、兄弟でも1株ずつ姿が違い、片方の親によく似た株から、両方の特徴が混ざった株まで幅が出ます。この幅の中から気に入った姿を残していくのが選別で、交配のいちばんの楽しみでもあります。